離婚事件と住宅ローン(オーバーローン不動産の財産分与の考え方)

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質問:離婚を考えていますが、どうしても家を手放したくありません!!絶対家は私のものです。家は3年前に3800万円で夫名義の住宅ローンで購入しましたが、残債務は3500万円です。

離婚事件にあたり、よく問題となるのは「持ち家」の処理です。そして夢にまで見たマイホームというものでしょうか、その家にこだわる方が多くいらっしゃいます。まずは不動産の価値を確かめて、オーバーローンの不動産の場合はどうすればいいか、検討してみましょう。

まずは不動産の価値を確かめる!

離婚するにあたって、財産分与をすることになります。財産分与とは離婚をした者の一方が他方に対して財産の分与を請求することができる制度です。

財産分与の目的は主に夫婦が共同生活を送る中で形成した財産の公平な分配を図ることと考えられています。財産分与の額は夫婦財産の清算を基本としてまずは当事者間の協議によって金額を決めることになります。

財産分与は当事者間で協議が調わないときや、協議をすることができないときは、家庭裁判所に調停を申し立てることができます。通常は離婚調停j事件の中でいっしょに財産分与の話し合いがなされますね。調停がまとまらなかったら離婚訴訟の中で決められることもあります。

家庭裁判所の審判、もしくは離婚訴訟では財産分与として夫婦の財産をそれぞれ2分の1ずつに分けるようになることが多いでしょう。要するに、財産分与は半分ずつ!というのが基本です。

財産分与の対象となる財産は、夫婦のいずれか一方の名義になっている財産であっても、実質的に婚姻中に築いた共有財産であれば財産分与の対象となります。婚姻中に夫がローンを組んで不動産を購入して夫単独名義になっている場合であろうともその不動産は実質的には夫婦の財産と考えられます。

このように夫婦の共有財産ですが、まず価値を把握しないことには正しい財産分与ができません。不動産につきましては、不動産業者にお願いして家の「査定」報告書を作成してもらいましょう。無料で見てもらえるところが多いと思います。

そしてできればその「査定」報告書は2社からもらっておくほうが良いです(その平均値で見ることをお勧めします。)。不動産の価格はけっこう幅があり、業者によってもその査定について観点が違うことがあります。

これらの不動産業者から出された査定額から住宅ローンの残債務を差し引いた価値が、その不動産の価値です。

たとえば質問者さんの不動産の価値が3000万円だとすると、住宅ローンの残債務が3500万円ですから、マイナス500万円の価値である、すなわちオーバーローンの物件ということです。

※この場合、特に注意していただきたいのが妻であるあなたも住宅ローンの「連帯保証人」となっていないかです。連帯保証人となっている場合は、住宅ローン借入先からするとあなたは債務者です。この場合はよくよく考えて、ご自身が債務者としてローンを返済できるか否かを検討してください。そもそも返済が無理であれば債務整理などを視野に入れる必要があります。

オーバーローンのときは財産分与でどう処理される?

オーバーローンの不動産の財産分与ですが、ほかの夫婦共有財産がある場合についてどう分けるべきか、裁判例では大きく分けて2つの考え方があります。

①オーバーローンの不動産について財産分与から除外した上で(ゼロとみる)、その他の夫婦の共有財産を2分の1ずつに分けるという考え方(非通算説

②オーバーローンの不動産のオーバーローン部分(マイナス500万円)について、他の共有財産と合わせて考え、そのマイナス部分を控除して財産分与をするという考え方(通算説

です。たとえばほかに夫名義の預貯金500万円があった場合には、①説(非通算説)だとオーバーローンを無視して夫250万円、妻250万円と分与することになりますが、②説だとオーバーローン部分が500万円ありそれが夫の負担ですから夫名義の預貯金500万円とが差し引きされ、妻に対する財産分与はなしという結論になるでしょう。

で、夫婦間の公平という観点から②の通算説が通説になってきているようです。少なくとも②説に近い考え方が取り入れられており、あたしも、数年前の妻側の離婚訴訟で、財産分与は②説に近い内容の判決をもらいました。すなわちオーバーローン不動産の多額のオーバーローン部分(800万円程度でした)について、夫が負担するので他に200万円程度の共有財産(夫名義の預金)があっても妻に財産分与はなし、ということです(…負け判決ですね。)。

どうしても家を手に入れたい場合は?

オーバーローンであろうがなかろうが、どうしても手に入れたい、私の家なんです!という方もいらっしゃいます...こういう方には、あたしは、あきらめるように説得することが多いです。

ですが家をどうしても取得したいという方にはいくつか方法はあります。夫との合意があることは前提となるのですが、それには3つ方法があります。

妻であるあなたが住宅ローンを引き継ぐ方法

妻であるあなたが住宅ローンを引き継ぐ方法はいくつかあるのですが、通常は「免責的債務引き受け」といって、抵当権者及び借入先金融機関である債権者との同意が必要になります。事前に債権者と交渉をしてあなたが単独の債務者となれるか審査を経て同意をもらう必要があるのです。もちろんあなた自身の収入、勤務先などの属性が審査されることになります。その審査が通らなければ無理です。

なお、ほかにも別に新たな金融機関で借り入れを起こす方法があり、その場合は、その借入金で弁済することになりますが、当然新たな金融機関での審査が必要です(なお、ある金融機関に聞いたことがあるのですが「財産分与」の不動産取得では新たに借り入れさせてもらえないということもあります。新たな借り入れ原因は「売買」による不動産取得でなければならないとのことです。このように金融機関との協議も事実上大変だと思います。)。

夫がそのまま住宅ローンを支払う方法

夫がこのまま住宅ローンを支払ってあなたが住み続ける方法、もしかするとこれを理想としている方が多いかもしれませんね。これは夫のローンを夫が払っているという本来的な形ですが、夫が支払わない場合のリスクを考えなくてはなりません。夫が支払わないときは家を失うことになります。あたしも、現に長期の住宅ローンの負担に耐えられなくなった夫側の破産事件を受任したことが複数あります。当然妻は住居を失いました。

事実上妻であるあなたが住宅ローンを支払う方法

事実上妻が住宅ローンを支払って住み続ける方法、これは法的に第三者弁済(他人の債務を自己の名において弁済する)と言われるものです。ただ妻が支払えなくなった場合は債権者である住宅ローンの金融機関は夫に請求し、夫が支払わなければ抵当権が実行され住居を失います。また、不動産について名義は夫のままでしょうから、このまま妻が払っても夫名義の財産です。この不動産をどのように分割するのかということ(たとえばローン完済時に妻が取得し所有権移転登記手続きをすること。)も離婚時から取り決めておいた方がいいでしょう。

負動産にこだわること、やはりおすすめはしません

このように住宅ローンで購入した不動産の財産分与は一筋縄ではいきません。オーバーローンだと不動産ではなく負動産なんです。

住宅ローンの期間は通常極めて長期ですし、いずれが負担するとしても経済的には相当厳しい債務を引き受けることになりますからね。ツイートはこのような状況をつぶやいたものです。

不動産にからむ問題はこのように難しい問題をはらむことが多いです。少なくとも弁護士に依頼してよくよく相談の上、公正証書や調停で調停調書をまとめるべきだと思います。

なお、法的に意味のない調停調書にしてしまって問題になったケースもありますからね、お気をつけてください。これは、関連記事「弁護士をつけずに調停をしたら失敗しました(調停調書でも強制執行ができない?)」をお読みください。

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