ブラック法律事務所から逃げよう!!

弁護士

質問:司法試験に合格して修習生になったばかりです。修習地ではない地方の法律事務所に就職したいのですが、ブラックな法律事務所ってあるんですか?

Twitterをしていると弁護士のツイートでたびたび目にする機会があるのが、ブラックな法律事務所。こんな事務所があるんだと驚愕しながら、今まで実際にこの業界で聞いた話からすると、まあ、ありうるだろうなと思ったりします。この記事では、ブラックな法律事務所とはどういうものか、ブラックな法律事務所に入ったらどうすればいいのかを分析します。

なお、本記事は、あたしが実際に聞いた話、元ボス弁と元イソ弁の裁判の判決で認定された事実、日弁連の会員ページ記載の事案の事実を基にして記載しています。

ブラック法律事務所って存在するの?

これは間違いなく存在します。修習生の方でそんな疑問を持った方がいたら「ブラック法律事務所」で早急に調べてみてください。存在するのです。

日弁連が弁護士しか閲覧できないページなんですけれど、「就労環境でお悩みの方へ」というカテゴリである記事を公開しました。ブラック事務所問題で悩む弁護士は必読だと思います。記事のタイトルは「Escaping a Toxic Law Firm Culture問題事務所から抜けだせ!!」、トキシック(毒のある)なんて表現、なかなかショックでしょう。

この日弁連の記事については本来修習生も読むべき記事なんだと思いますが、いかんせん内容がデリケートですから会員専用サイトでの掲載になったんでしょうね。

ブラック法律事務所はいろいろなパターンがあると思います。これらが問題が複合的に重なっているケースもあります。この記事ではいくつかパターンごとに分けて分析してみます。

パワハラ(暴力・暴言)が常態化する法律事務所

いわゆる街弁の法律事務所は小規模のことが多いです。現在も弁護士数1~5名程度の規模が多いでしょうか。このような街弁の法律事務所では、通常ボス弁(ボス、いわゆる経営者の弁護士)が極めて強大な力を持っています。このボス弁の個性が雇われるイソ弁(形式的には雇用ではなく「業務委託」でしょうが、あえて雇われると記載します。)の労働環境を左右するのです。

そして法律事務所は小規模であり、独特な密室性を持つことが多いです。これもブラックな法律事務所を生み出す温床となります。

あたしの知っている法律事務所のボス弁は、土曜日になるとイソ弁に手をあげたと聞きました。どうやらそのボス弁、資金繰りに窮して闇金に手を出していたようですね。それで土曜日になると闇金が取り立てにくるようで機嫌が悪くなって事務所にいるイソ弁を殴るという話でした。もうその法律事務所はありませんし、ボス弁も弁護士資格を失いました。

その他にも、イソ弁に土下座をさせたり、こんな仕事ができないお前は無能だとか恫喝したり、イソ弁をロッカーにたたきつけたり、無資格者にしてやる懲戒請求してやるなんて暴言があったりした事案もあります。バリエーションは様々ですが、このようなパワーハラスメント(暴力暴言がある)事務所が実際に存在するのです。なお、弁護士髙木亮二先生のHP「横浜地裁川崎支部判決のご報告」では実際の裁判について詳細が語られています。

あたしも、下記ツイートのようにボス弁がご高齢で認知症が疑われる状況で暴力をふるってくるという話も聞いたことがあります。

労働条件や労働環境が過酷な法律事務所

毎月固定額の給料が決められていたのに、一方的に減額されたり無給になったりしたという法律事務所もあります。また一定の売り上げノルマを立ててそのノルマに達成しないのであれば給料は支払わないというような例もあるようです。

また、あたしも身近にいたのですが、イソ弁が働かされすぎな事務所があります。事件内容にもよりますが、通常、手持ちの民事事件が40件以上になってくると徐々にきつくなるでしょう。新人であるにもかかわらずこれを超える過重な業務量、過酷な業務内容に加え、ボス弁から、夜11時過ぎても依頼者等の電話に出るように指示されたというイソ弁の話も聞いたことがあります。ほどなくしてメンタルをやられてしまって、そのイソ弁はインハウス(企業内弁護士)に転向しました。

それとイソ弁常時監視系法律事務所もあります。これもあたしが実際に後輩の弁護士から聞いた話をツイートしました。監視カメラでイソ弁を監視して何になるのかまったく疑問なのですが、実際に監視されている状況のイソ弁もいるようです。またこのツイートの返信で、同業の弁護士から、「同期の弁護士が期日の帰りに寄り道しないようにGPSを付けられる事務所にいた」という話も聞きました。あたしもイソ弁だった時代ありますがそんなのむりむりむりむりかたつむり…

非弁提携、非弁事務員のいる法律事務所

非弁提携というものがあります。非弁提携については、従来だと弁護士が非弁提携業者に職印などを預けて丸投げをするという方法だったのですが、最近よくある形の非弁提携は、弁護士(これは比較的若手の弁護士がターゲットにされることが多いです。)が騙される形で取り込まれてしまい事務所の経営権を非弁提携業者に握られるような形です。非弁提携事業者が事務所のお金の横領や経費流用等で依頼者を食い物にし、最終的には弁護士の財産までも食い物にするというものです。

本題からずれますが、あたしの地域でも取り込まれた弁護士がいました。非弁提携業者は最初はコンサルタント、HP作成の営業かなんかで来たようです。独立してる若手弁護士におかれてはくれぐれも「高齢の弁護士が廃業するから事務所業務を引き継いでくれる弁護士を探している。」とか「先生に顧問先をお願いしたい。」といった甘言の勧誘の電話には気を付けてください。

なお、非弁提携業者については、「第二東京弁護士会 本当に怖い非弁提携」が詳しいです。

このような事務所の経営が持つわけがなく、非弁提携業者にその財産を食い尽くされるようにして倒れていきます。このような事務所にいても弁護士としての実力は養われるどころか弁護士法等違反で懲戒を受け弁護士資格を失ってしまう危険まであるのです。

また弁護士数に比べて事務員数が多い事務所は避けろと昔(過払い全盛時代)から言われています。単純に弁護士の仕事(多くは債務整理事件)を事務員に丸投げしている可能性があるからです。目安は弁護士1~2人:事務員1人を大幅に上回ること、これは一つの考慮要素にはなるかと思います。

ブラック法律事務所を避けるにはどうすればいい?

情報収集(口コミ)が命

弁護士の懲戒歴は調べようと思ったらネットでも調べられると思います。複数の懲戒歴があった場合は注意してください。

そしてブラック法律事務所を避けるためには、これは一にも二にも「口コミ」です。一番はその地域の弁護士から聞き出すこと、これが大切なんです。修習先が就職予定地から遠方だったため十分な情報が不足して失敗したという話はよく聞きますから、情報収集が命だと思ってください。

この情報を集めよう

情報収集すべきなのは、その事務所のボス弁の評判、離職率の高さ(勤務歴2,3年以上のイソ弁がいるか、今までイソ弁がすぐに辞めてないか。)、事務所のメンバー構成(事務員数が多すぎないか、閉鎖的な家族経営じゃないか、弁護士の期に偏りがないか。)などです。

実際にブラック事務所の勤務経験があるTwitterの弁護士に教えてもらったのですが、特にメンバー構成には気を付けたほうが良いとのことでした。メンバー構成として、たとえばボスが年齢40~50代それと同程度の人間がいてその後は新人が多数だった場合。つまりボス世代と新人の間がスカスカです。こういった場合、中途経験者を入れても1年そこそこで辞めてしまって、中堅がいつかないという結果ということがあるんです。ただこれは地域の事務所の規模によって異なりますし、あくまで可能性というだけですので、一つの考慮要素としてお考え下さい。

情報収集のための方法は?

元イソ弁の早期離職の調査については、HPの過去の履歴を調べられるサイト「Wayback Machine」があるようです(転職エージェントNO-LIMITによる「ブラック法律事務所が持つ5つの特徴と見分けるポイントを詳しく解説」参照)が、あたしの知っているイソの入れ替わりの激しい法律事務所は変更履歴が出ませんでしたね。弁護士紹介のページごと変えてるのかもしれません。

またこれもTwitterの弁護士に教えてもらったのですが、弁護士法人であれば、法人登記つまり履歴事項全部証明書(現在事項ではなく過去の異動がわかるもの。場合によっては閉鎖登記まで。)を取って社員の入れ替わりを確認する方法です。これもありですね。取り方はGVA 法人登記「登記簿謄本(履歴事項全部証明書)とは?法務局やネットでの取得方法も解説」に詳しいです。

なお、弁護士法人の場合、若い弁護士が支店長(社員)にさせられてしまうことがあり、問題となっています。弁護士法人の社員は、弁護士法人について無限連帯責任を負います(弁護士法第30条の15第1項)。そして、社員脱退の登記日から2年が経過するまで無限連帯責任を負い続けることになります(弁護士法第30条の15第7項)。借入金が多額の弁護士法人が破産(債務超過)になった場合もこの期間であれば責任を問われるのです(おそろしいことに法人が税金滞納していた場合、第二次納税義務も負います。)。社員脱退の登記にあたり弁護士登録抹消まで追い込まれるなど取り返しがつかないので、注意喚起します。

そして、前述したとおり地域の弁護士の話を聞くことは重要なのですが、特に話を聞くべき相手は、その事務所に勤務経験がある弁護士(その事務所にいるイソ弁や元イソ弁。)、またこれらの方たちをよく知る弁護士の方たちです。ごくまれに外部から受けはいいけど、内部は全では全く異なり、支配的で威圧的でイソ弁の環境が良くないという法律事務所があります。

こういう事務所はやはり勤務経験がある方しかわかりませんからね。あたしがもし今同じ立場で、勤務しようとする事務所の元イソ弁の弁護士がいるのであれば、その弁護士に電話して直接、話を聞いちゃいますね…

そのほか街弁の就職先について思うことなんですが、あたしの独自調べだとこんなツイートになります。あくまでも独自の見解なんですけどね。

ブラック法律事務所かもしれないと思うなら(予防線をはる)

内定もらった先、もしくは就職したばかりだけど就職先がブラック事務所かも…という場合。難しいかもしれませんが、弁護士会の会務(委員会の所属)、派閥があれば派閥、部活動のメンバーになっておくほうが望ましいです。少なくとも修習の同期とは仲良くしましょう。修習の教官、弁護修習先の弁護士にも連絡を取っておきましょう。

とにかく一にも二にも、弁護士はツテです。地方の弁護士会は良くも悪くも村社会です。とても閉鎖的で独特な社会なのですが、村社会の特殊性は困った弁護士の窮状を助けようとする矜持がまだあるということです。

新人があの弁護士の事務所に入ってしまい、困っているらしいという話は、地域にいれば耳にしたりするものです。またその新人から実際に相談を受けたりして、じゃあ、イソ弁を欲しがってたあの事務所に連絡してみたらどうだろうといったアドバイスをしたこともあります。

そのためには顔と名前を周りに覚えておいてもらうこと、それが重要です。だからこそ、弁護士会の会務(委員会の所属)、派閥があれば派閥、部活動のメンバーになっておくこと、これが重要なんです。これがいざとなったときに命綱になるんですね。

それすら頼れないのであれば、せめて修習の同期、修習の教官、弁護修習先の弁護士とは仲良くしておいてください。修習同期のつながりで助けられたという話はよく聞きますからね。

ツテを作ることの大切さに関連して、ですが、修習生から内定先の報告を聞いた場合のあたしの対応をツイートしました。

もしブラック法律事務所に入ってしまったら?全部戦略!

助けを求める勇気を持つ

上記のようなブラック法律事務所に入ってしまったということであれば、早急に抜け出しましょう。心身に故障が生じてからでは身動きがつかなくなってしまいます。そしてそのために全部できることはやっていきましょう。全部戦略です!そのためには助けを求める勇気を持ってください!

そして、気を付けなければならないのは「感覚のマヒ」。ブラックな法律事務所にいると感覚がおかしくなって何が普通か異常かわからなくなるんです。修習同期と自分の環境を比べたりして、常に自分の置かれている環境は正しいものなのかをチェックしましょう。

もちろん助けを求めるにあたって日弁連の「会員サポート窓口も利用してみるのもいいと思います。会員サポート窓口は、会員の職務または業務に関して生じた各種の問題(所属事務所における処遇・勤務条件・勤務環境等にかかわる問題も含みます。)の相談を受け付けています。

周りのツテを頼る

まずは先ほど述べた弁護士会の会務(委員会の所属)、派閥があれば派閥、部活動のメンバーに相談しましょう。それがだめなら修習の同期、修習の教官、弁護修習先の弁護士に相談してみましょう。助けを求めてみてください。

ただ、ブラックな法律事務所の場合、委員会や部活などの外部活動の自由も制限されていることが多いです。ツテなど作る環境にいられないということですね。こういう場合は単位会の弁護士会の役員ら(副会長クラスでもいいですし、支部在籍なら支部長でもいいかと思います。)に電話して、いきなり助けを求めたっていいと思います。

ひまわり求人、転職エージェントで探す

もしツテをたよることも難しい、助けを求められそうもない…そんな場合は、自力で就職先を探しましょう。まずはひまわり求人ですよね。日弁連の求人ですから求人数も結構ありますね。素晴らしい!!

現在、Twitterで素晴らしい環境の法律事務所で勤務されている若手弁護士がいたのでどこでそんな事務所見つけたの?と聞きましたら、ひまわり求人です、と言われました。もちろん掲載している事務所が全部いい事務所というわけではないですが、とりあえず情報を常にチェックしておいた方が良いのではないでしょうか。

ひまわり求人では、苦情が多い事務所や代表者が業務停止以上の懲戒処分を受けた事務所などは一応は省かれるようですが、それをすり抜けることもあるそうなので、やはり注意はしてください。

そしてあたしの時代にはなかったのですが民間の弁護士転職エージェント、こういうのも頼ってみていいと思います。

利用したことはないのでご自身で調べてほしいのですが、経営会社についてあたしの独自の「株式動向」分析でいきますと(笑)2023年1月現在同業他社が株価の底を掘っているにもかかわらず株価が上を向き株式会社MS-JapanまたLINE広告でもよく見るようになった弁護士ドットコム株式会社(弁護士ドットコムキャリア)とかでしょうか。株式会社アシロ(NO-LIMIT)もあります。

繰り返しますがブラックな法律事務所から抜け出すためには、いち早く、とにかく全部戦略でいきましょう。

ちなみに、どんな事務所がいい事務所なのかについては関連記事「修習生で法律事務所の就職活動中です。どんな事務所が良いでしょうか、良い弁護士の特徴を教えてください。」に書いてみました。

弁護士なんだ!独立できるんだ!と自分を信じよう

次の就職先が見つからないという方も、また、もう人の下では働きたくない!と思う方もいるでしょう。結局はあたしたちは自営業です。いざとなったら独立できるんです。心細いかもしれませんが今は単位会の弁護士会をはじめとしたサポート体制もありますから、その覚悟を持って、いち早くブラックな法律事務所を逃げ出す態勢を整えることが大切かと思います!

大事なことなので繰り返しますが、気力体力があるうちに行動を起こしてください。心身に故障をきたしてしまうと身動きがつかなくなってしまいます!逃げることは、決して恥ずかしいことじゃないです!!

コメント