地面師事件の分析について

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ネットフリックスのドラマ「地面師たち」、面白かったですね。もう大好き。

仲良くしてくださってる司法書士の先生が「地面師対策オフ会」を主催されまして、お声がけいただきましたので、よろこんでと出席してまいりました。

そこで5分間程度お話しくださいと言われましたので、事前に本を3冊購入し、積水ハウスの調査報告書や関連判決を読んでまじめに勉強しました。

そこでお話ししたところ、主催の司法書士の先生が、面白かったんでブログにまとめてください!(振り返るとお世辞かもしれない。いや、お世辞だ。)と言ってくださったので、せっかくなので原稿をアップすることにしました。

なお、オフ会では地面師たちの登記・土地取引監修・司法書士長田修和先生がいらっしゃたので、色々とご苦労された話を教えていただきました。司法書士の先生として誇り高く、経験豊富でとても素敵な先生です。めちゃくちゃ贅沢で貴重な機会ですね、ありがとうございます!

以下原稿(+ちょっと関連ツイートと、積水ハウス事件部分③④を追記したもの)です。

本日は、地面師対策オフ会に参加させていただき、主催された司法書士の先生には大変感謝申し上げます。

オフ会に当たって、本は三冊「地面師たち」(新庄耕、集英社文庫。これは原作本。)、「地面師」(森功、講談社文庫、これは実際の地面師事件ルポ。)、「保身」(藤岡雅、角川文庫、これは積水の裏話、お家騒動メイン。)そして、積水の調査報告書及び関係判決に目を通しました。

特に積水ハウスの調査報告書は公開されてネットで見られます(積水ハウス分譲マンション用地の取引事故に関する総括検証報告書の受領及び公表について)。地面師の手口分析と人間心理が描かれて、とても面白かったです。

ちなみに私の事務所がある地域では、地面師というたいそうなものは必要がなくて、認知症や知的障害のある方などが、ストレートにだまされて自宅を相場よりも著しく低額で売却させられたりしています

最近では不動産会社が資産価値のない200万程度のマンションの1室を50以上の共有持ち分にして、例えば50分の10の持ち分を、認知症高齢者に数千万円という高額の価格で売りつけてたりしています。

先日も、受任事件の関係で、認知症高齢者を騙して準詐欺罪で起訴された被告人らの刑事事件の期日にいきましたが、被告人らの勤務する会社には詐欺マニュアルとともに高齢者のデータが数万件保存されているそうです。そしてその不動産会社代表者も、一味も不起訴となっています。これからも認知症高齢者に対する詐欺事件の被害は増大していくことと思います。

ちなみに過去の手がけた関係事件のツイートの一例です。

①さて、テーマの地面師たちですが、大変面白くて、特に1話が好きです。この一話で地面師の手口と人物関係を伝えて、今後の展開に期待を持たせる。素晴らしい出来です。

第1話で描かれたのは、あの印象的なおじいさんの ピーコックは高いので反対側のライフに行きます。ライフは安いので。事件です。これは時期的、場所的な関係でみて、富ヶ谷事件もモチーフにしたものではないかと考えられます。

この富ヶ谷事件では公正証書への信用(公正人を利用した登記義務者であることの確認する本人認証制度です。不動産登記法第23条第4項第2号。なりすましを本人とするために使われました。)とともに、弁護士の社会的信用も利用されました。関与した弁護士はM永法律事務所のM永弁護士、そして元イソ弁のY水という人間です。

元イソ弁は、それより前に弁護士資格を失っており、コンサルタントとしてこの地面師の不動産取引の話を持ってきました。M永弁護士は、東京二弁の副会長を務めた弁護士でしたが当時すでに認知症気味の70代後半。物忘れ外来に通ってたそうです。

いわゆる元イソ弁による非弁乗っ取り事務所だったと思います。法律事務所を利用した打ち合わせ、売買契約、弁護士関与の公正証書、これらが買主の目を曇らせました。

②この富ヶ谷事件の民事の損害賠償請求訴訟ですが、6億4800万円という巨額の損害賠償請求訴訟(構成は、弁護士や司法書士らも含めた共同不法行為責任。)です。M永弁護士の請求は東京地裁の第1審で認められましたが司法書士に対する請求は棄却されました(東京地裁平成29年11月14日判決)。

そして控訴審(東京高裁平成30年9月19日判決)ですが、司法書士の責任が半額、認められました。半額といえども3億2400万円ですよ、大変、こわいなと思いましたが、ただ、最高裁の令和2年3月6日判決では差し戻しとなりました。

有名な判決で、詳細は省略しますが、司法書士の注意義務の範囲として直接の委任者に対する注意義務とそれ以外の第三者に対する注意義務を分けている、興味深い判例です。

(この事件では、ダミー会社のオンライフが中間に入って取引がされており、司法書士は後続の取引であるオンライフと買主の受任という形だったので、司法書士は委任者に対する高度の注意義務までは負わない(第三者に対する注意義務にとどまる)というものでした。差し戻し後はどうなったのか調べてもわかりませんでしたが和解で落ちたのではないでしょうか。)

なお、M永弁護士は懲戒請求されており、6か月の業務停止となりました。調べると平成30年の業務停止中に登録抹消されてます。

以上のように、このように弁護士の信頼、公正証書への信頼(公証人による本人確認)を利用する手口が積水ハウス事件でも使われ、残念なことではありますが弁護士業界の苦境も相まって地面師事件が生じていると考えると、大変興味深いお話でした。

③積水ハウス事件は、60億以上の被害額ですが富ヶ谷事件をさらに巧妙にした手口です。富ヶ谷事件では公正証書による本人認証制度、弁護士への信用を利用したものですが、積水事件ではこれに加えてさらに「IKUTA HOLDINGS」を介在させて先行の売買契約の形を整えました。

IKUTA HOLDINGSはドラマで言うところの胡散臭い白メガネ野郎が代表を務める阿比留HDです。地面師と代表取締役のイクタは、申し込み証拠金として2000万円を払って偽売主と売買契約を締結したという形にしました。公証役場で2000万円の札束を前に偽売主とイクタが一緒に写真撮ってるそうです、この時点ですごい怪しいです(笑)

これに対して積水側は「イクタが2000万円しか払ってない、いつ解除されてもおかしくない」という不安と「イクタが他への転売しちゃうのでは・・・」という不安要素を抱えていました。これが積水側の心理を焦らせていったようです。

そして偽売主(なりすまし)とIKUTA HOLDINGS、IKUTA HOLDINGSと積水との間でそれぞれ売買契約を締結した際(平成29年4月24日)に、それぞれに仮登記してるんですけども、仮登記では登記済権利証は申請書類の添付書類ではないんですね。そして法務局が仮登記申請に不備がないと判断した、これも積水を最終決済まで走らせてしまった大きな要因だと思います。

④積水の調査報告書によるといくつも積水が引き返すポイントがありました。ドラマにもありましたが、契約後決済の前までに、積水はその取引の売主は真の所有者じゃないという警告の通知書3通を受け取りました。ドラマでは小池栄子が、山本耕史に追い詰められてううっと感極まって「こちらへ」と言って五智如来像を見せて、けむに巻くやつです。

この通知書は病床にある真の所有者の親族(異母兄弟)が出したものです。積水側は、何をしたかというと、「あなたがこの通知書出したわけではないですよね?」と聞いてその確約書を取り付けようとしたそうです。そんなの、なりすましが、自分が通知書出したっていうわけないじゃないですか。

それ以外にも、なりすましが住所地番を間違えたり、干支を間違えたり、誕生日違ったり、約束していたのに権利証を持参しなかったなどのほころびはあるのですが、積水側はつきすすんで、決済日も前倒しにしています。

積水の調査報告書は、法務部の右往左往、顧問弁護士の助言等々もエピソードあり、これは人間心理として本当に面白かったので、興味をお持ちの方はぜひご覧になってください。面白さ、ドラマ以上。

以上、そのほかにも積水のその後のお家騒動(株主代表訴訟)などありますが、地域の弁護士という職業柄、惹かれた4つの面白かった話でした。

今日は皆様と、楽しい時間を過ごしたいと思います、どうぞよろしくお願いいたします。

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